しかしながら、青春18きっぷシーズン中に並行在来線の第三セクター鉄道に乗ってみると、JR時代よりも乗客が少ないところが多い。2020年1月に乗った肥薩おれんじ鉄道(全線乗車)は、たった1両でもガラガラ。7月、別媒体の取材の帰りに乗った、えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン(直江津~糸魚川乗車)も、直江津発車時、1両で座席数が足りる状況で、私が下車した糸魚川でガラガラとなった。
今後、北陸新幹線は金沢~敦賀、北海道新幹線は新函館北斗~札幌が延伸され、並行在来線の第三セクター鉄道化が予定されている。今まで上記の鉄道に乗った限りでは、JR線時代に見られた青春18きっぷを使った通過利用の乗客が明らかに減っている。
そこで“新幹線時代”に見合った交通ネットワークの構築と充実を図るため、取り上げた並行在来線の第三セクター鉄道8事業者を全線で利用できるよう、私は「青春18きっぷの値上げを検討すべきだ」と提案する。
並行在来線を引き継いだ第三セクター鉄道の自社線内も乗り降り自由にすることで、まずは利便性を確保する。次に鉄道によっては、車内の自動放送で、沿線の見どころ車窓、名所などを案内しているのだから、沿線の観光客増加にもつながり、地域の活性化にも貢献する(現時点では「新型コロナウイルスが終息した」ことが前提の話となる)。
第三セクター鉄道にとっては、青春18きっぷでの利用客が少なくても収益を得られるので、経営安定に貢献することも期待できる。
現在、青春18きっぷは1枚12,050円(大人、子ども同額)。第三セクター鉄道1事業者あたり220円×8事業者分を加算し、13,810円とする。さらにJRの駅だけではなく、当該の第三セクター鉄道の有人駅でも発売する。
最大のメリットは、当該の第三セクター鉄道にとっては、乗らなくても収益を得られること。例えば、1シーズンあたり5,000枚売れた場合、1事業者あたり220円×5,000枚=110万円の売り上げとなる。消費税10万円を差し引けば、100万円が収められる計算だ。
もう少し詳しく述べると、青春18きっぷが13,810円で発売された場合、1シーズンあたり5,000枚売れると、6,905万円の売り上げとなる。うち880万円は、当該の第三セクター鉄道に110万円ずつ分配。残りの6,025万円をJR旅客鉄道各社に分配すればよい。
デメリットを挙げると、青春18きっぷ期間の利用者が増えることで、例えば通常通り1両で運転する場合、乗客が乗り切れず、次の列車を待たなければならない恐れがあることだ。多くの乗客が見込まれる列車については、増結などの検討が必要になり、経費がかさむだろう。
2020年代に入り、少子高齢化がいっそう進み、ローカル線を中心に収益の確保が大きな課題となる。さらに新型コロナウイルスの影響で、経営が行き詰まる恐れもある。今こそ鉄道事業者同士の連携強化を図り、明るい未来を切り拓いてほしい。(文・岸田法眼)
岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。