歯の治療で、かぶせものや詰めものとして欠かせない「金パラ合金」。この素材となる金などが値上がり、街中の歯科医院から“悲鳴”があがっている。米中関係の悪化や新型コロナウイルス問題への不安感が長引けば、さらに金が注目されて高値が続きかねない。
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健康保険が適用される金パラ合金は、金12%、パラジウム20%を含んだものと規定されている。これに銀50%前後などを加えたものが、歯科治療で一般的に使われている。
「金やパラジウムなどの市場価格の動向で、歯科医の利益がプラスになったり、マイナスになったりする。とくに金パラ合金は材料費が高騰していて、利益は薄い。歯科医をやりたくなくなる」
名古屋市の篠田デンタルクリニックの篠田鉄郎院長は嘆いた。歯科産業にとって、出荷額の半分近くを占めるのが金パラ合金だ。それだけに、金相場の値上がりは深刻だ。
歯科の診療報酬は、半年ごとに改定されてきたが、今年4月からは市場価格の実勢に近づけるねらいで3カ月ごとの見直しへと縮まった。それでも金パラ合金は、診療報酬上の告示価格と市場実勢価格が大きくかけ離れているというのだ。
東京都葛飾区のコージ歯科の貝塚浩二院長によれば、金パラ合金は通常、30グラム単位で取引されている。これが足元では、診療報酬改定の告示価格6万円超に対し、市場実勢価格が安くても7万円超で消費税も上乗せされてしまう。4月には、市場価格が9万円近くに跳ね上がっていたという。
「歯科医を開業した36年前に比べ、金パラ合金の価格は10倍くらいになっています。とくにここ2~3年は大変で、使うことを減らしています。診療報酬の見直しが追いついていません。健康保険の治療対象に、価格が変わるものを使うのはおかしい」と貝塚院長。
金パラ合金の市場実勢価格が、診療報酬改定の告示価格を上回ってしまう「逆ざや」問題。全国保険医団体連合会もこれを生じさせないため、制度の抜本改善を求める談話を7月下旬に出した。連合会の担当者は話す。