さらに、金の市場規模が金融市場よりも小さいことも影響している。規模が小さいだけに、流れ込むマネーのインパクトはそれだけ大きくなる。
金だけではない。金パラ合金に欠かせないパラジウムも値上がりし、金よりも高い状態が起きている。自動車の排出ガス浄化の触媒などにも使われるパラジウムは、「供給が限られている」(前出の加藤さん)ことが影響しているとみられる。
銀も上昇傾向にある。金相場が上がるなか、昨年末から銀に割安感が出てきて買われるようになったという。
金相場はどうなっていくのか。投資顧問会社マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表は、乱高下があったとしても値上がりが続くとみる。
「欧米の投資家が大挙して金市場に資金を投じています。新型コロナ問題もあって各国の財政支出が膨らんでおり、インフレへの警戒感が欧米の投資家にはあります」
金融緩和を続ける米連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシートは、ここ数カ月で3兆ドル(300兆円相当)ほど膨れ上がった。世界中で通用する“安全資産”と位置づけられてきた金の市場へ資金が流れ込み、値上がりしやすくなっているというのだ。
日常生活において、金が値上がりして困っている人はそう多くはない。冒頭の歯科医のように、金相場に振り回されているケースは限定的だ。
けれども亀井さんは指摘する。
「先行きの不安や不透明感で、市場心理が金相場を押し上げている側面があります。世の中としては、金相場の上昇はいいことではありません」
(本誌・浅井秀樹)
※週刊朝日 2020年9月4日号