食通としても知られた作家の池波正太郎は、初めての店に入る前に、その良しあしの見当をつける方法を尋ねられ、こう答えた。

「食べもの屋というものは、まあどんな店でもそうだけど、店構えを見ればだいたいわかっちゃう」

「でも、こればかりは口では言えないやね」(『男の作法』新潮文庫)

 うーん、でも、そこが知りたい…… というわけで、まずは人海戦術に頼ることにした。朝日新聞の無料会員サービス「アスパラクラブ」の会員にアンケートし、2212人の「食いしん坊」たちに「店選びでこだわるポイント」を挙げてもらったのだ。集計結果は表(記事の一番下)のとおりである。

 まずは、前情報なしに街で見かけた店に入る場合。

「開店前に自分の店の前だけでなく、周りまできれいに掃除をしている様子を見ると行ってみたくなる」(50代女性・京都)など、もっとも重視されていたのは店の「清潔感」だった。

 次に重要なのは、池波流に「店の顔つき」。すなわち、「門構え」や「看板の出し方」などである。

「入り口が端正で、店名が書かれた行灯がポツンと美しく光っていたり、手書きのお品書きにスポットライトがあたっているなど、細部にまで店主の心意気が感じられる店は期待がふくらむ」(40代女性・東京)

 なるほど、やはり見た目は大切。ここにセンスの良さが感じられれば料理にも期待できるというわけだ。

 ちなみに、性別でみると、男性は店の顔つきを、女性は清潔感をより重視する傾向にあった。70代以上は、店の顔つきよりも「老舗としての安心感」を重視している点も興味深い。

 続く3番目は「店頭のお品書きの価格」だ。

「新鮮な食材をリーズナブルな値段で出しているかどうかがひと目でわかるし、勝負している感じがする」(30代女性・福岡)

 4番目は「なんとなく醸している雰囲気」。

「料理の味、価格もだが、やはり一番気になるのは店の雰囲気。接客態度についても、店主や店員が素っ気なかったり、妙になれなれしかったりせず、適度な距離で居心地の良い空間を形づくっている店が好ましい」(50代男性・埼玉)

 そして5番目が「店頭のお品書きの内容」だった。「静かかどうかという店の雰囲気もさることながら、まずはお品書きがわかりやすいかどうかが気になる」(60代男性・北海道

 初めての店に入るときに価格やメニューを気にするのは当然だろう。

 だが、今回の調査結果を見る限り、そうした「条件」よりも、店が醸し出す「気」のようなものを重視する傾向は、老若男女を問わず一致している。

 以上は、ぶっつけ本番で「勝負」する場合の着眼点だが、ネットやテレビ・雑誌などで飲食店の情報があふれる昨今、事前に下調べをしてから、という人は多いに違いない。

 そこで、アスパラ会員諸氏に、新しく飲食店を探す際にどんな情報を参考にするのかも聞いてみた。

 結果は、「グルメ情報サイト」や「新聞・雑誌などのグルメ情報」を抑えて、「クチコミ」が堂々の1位に輝いた。「ミシュラン」などの格付け評価付きレストランガイドは、なんと9位に甘んじた。

 参考にするクチコミで一番多かったのは「グルメな友人・知人」である。

「主婦なので、店のレパートリーが限られているため、特においしいものを食べに行きたいときは、雑誌編集者の友人に聞く。新しい店を知っているし、雑誌には書けないホンネも聞けるから」(30代女性・東京)

「友人・知人」に次いで多かったのは「インターネット上のクチコミ」だ。

「インターネットにはクチコミはもちろん、たくさんの情報が掲載されているので、一つの目安になっています。お料理の内容やお店の雰囲気も見ることができますし、シェフの職歴もお店探しのポイントになります」(50代女性・愛知)

 グルメ情報サイトをチェックする場合、クチコミや第三者の評価を除くと、どんな情報を参考にするのかという質問では、「お品書きの価格」が断トツで、回答者の6割以上が真っ先に着目していた。お店のクーポンなど割引情報の有無は、実はあまり重視されていないのだ。

 700万人以上の会員数を誇る飲食店情報サイト「ぐるなび」広報の栗田朋一氏はこう解説する。

「2009年に会員向けに行ったアンケートでも、最も参考にしたのは、料理の価格や内容、写真が掲載されている『メニューページ』でした。ただ、各店のトップ画面は飲食店側が作成しているので、店のセンスや個性、こだわりが一番表れる部分です。お店の情報を調べる際には、トップ画面もしっかりチェックするといいと思います」

 ちなみに、ぐるなび利用者が最近求めている情報は、食材の生産地や生産者、栄養成分やカロリーなど。価格や料理構成に加えて、食の安全や健康への意識が高まっているそうだ。

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