「そのときが一番つらかった。毎日のように虐待事件の報道があり、自分もこんなことをしてしまうのか、もうしているのと同じなのか、いつか旦那にも家族にも愛想をつかされて捨てられるのかと、悶々とした日々を過ごしました」

 一度と言わず、二度三度、「死」を考えたこともあった。そんなC子さんを救ったのは、夫の言葉だった。

子育ては2人でやるんだ。お互いができることだけやればいい」

 そう言われ、C子さんはハッとする。いつしか、

「子育ては自分一人でやるものだと思い込んでいた」

 からだ。
 今では体調がいいと、わが子にご飯を与えたり、手を握れるまでに回復したという。
 C子さんの夫はこう振り返る。

「以前は妻が理解できず、子どもが泣き叫ぶ横で何もせずボーッとしている姿に腹を立て、『それでも母親か』と怒鳴ったりしました。でも心療内科の先生と一対一で面談したときに『奥さんはお子さんのことを一人でなんとかしようとして、追い詰められています』と言われました。そこで初めて自分が何もしていないことに気付きました。ただ、彼女を追い詰めていただけだったことを知ったんです」

 取材に応じた女性たちはみな、

「こんなふうに感じてしまう自分が悪い。理解されないことはわかっている。でもそれが一番つらい」

 と口をそろえていた。
 宋医師はこう警告する。

「母親が妊娠や育児を受け入れられないということは、想像以上につらいこと。『母親のくせに』『母親なんだから当然』などという言葉を使って頭ごなしに否定するのは、あまりに未熟な話です。耐え切れず、自殺してしまった人もいます。一方的に母親だけを責めるのは、言葉の殺人になりうることを知ってください」

 冒頭のA子は昨年、元気な男の子を出産した。以前の不安そうな顔は消え、

「本格的に母親になったんやから、もう甘えたこと言ってられへん。旦那に遠慮せず、何でも注文するわ」

 と、いくらかたくましくなった笑顔を私に見せた。

週刊朝日

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