「35歳のときに子どもを産みました。妊娠中は年も年だし、初産ということで、不安でいっぱいでした。『出産後に旦那に捨てられる夢』や『赤ちゃんを殺してしまう夢』を何度も見ました。でも、母親の自分が一番しっかりしなきゃと言い聞かせ、家族には気丈に振る舞っていました」
なんとか無事に出産し、幸せな家庭を築いていこうと希望に溢れる中、再び試練が訪れる。
「母乳が思ったように出なかったんです。私は母乳で育てることをとても楽しみにしていて、妊娠中もずっと食べ物に気をつけていました。それに先輩ママたちの話だと、母乳を出すと自然に体重が減って、簡単に体形を戻すことができる、と聞いていたからです」
最初は無理やりにでも飲ませようと、乳首を赤ちゃんの口に押し込んでみたが、乳の出が十分ではないためか、赤ちゃんは泣くばかり。何度もトライするが、やはり嫌がる。
叫ぶように泣き続けるわが子を見て、C子さんは絶望的な気分になっていった。
「私は赤ちゃんを泣かせたいわけじゃない。ただ、おっぱいを吸ってほしいだけ。それだけのことすらできない母親に何ができるんだろう。これからどうなるんだろう、ってそんなことばかり毎日考えてたら、なんかドッと疲れちゃって、赤ちゃんに触ることができなくなったんです」
心療内科に行くと、〈育児ノイローゼ、鬱〉と診断された。このようなケースについて、宋医師はこう解説する。
「お産直後の女性はホルモンのバランスが崩れ、いわゆる『マタニティーブルー』の状態になる。そこへさらに『母乳が思うように出ない』『旦那が全く協力しない』など自分の描いていた未来予想図とのギャップが、育児ノイローゼの引き金になることもあります」
C子さんは、主治医の勧めで長期の休みを取り、数週間ほど仕事とも子どもとも離れる期間を設けた。