浜矩子/経済学者、同志社大学大学院教授
浜矩子/経済学者、同志社大学大学院教授
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8月28日に辞任を表明した安倍首相 (c)朝日新聞社
8月28日に辞任を表明した安倍首相 (c)朝日新聞社

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

【写真】この人も「アホノミクス」の立役者?

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 安倍首相が辞任表明した。病気はお気の毒だが、やれやれだ。だが、これで筆者も打倒アホノミクスでは商売が出来なくなると思えば、少々途方にくれる。

 もっとも、もし後任が菅義偉官房長官になるのであれば、アホノミクス路線がそのまま踏襲されることになりそうだ。その場合には、筆者もこれまでと同様の攻撃の構えで行ける。ただ、ネーミングはアホノミクスから「スガ首相」の「スカノミクス」に変えてもいいかもしれない。

 それはともかく、今の日本経済が必要としているのは、アホでもスカでもないまっとうな政策的手助けだ。経済政策は、経済活動に対する外付け装置だ。経済活動が、その内なる自律性によってはうまく回らなくなった時、政策という名の外付け装置がレスキューに乗り出す。この関係がしっかり確立していなければならない。

 今こそ、この関係の堅固さが問われる。パンデミックという壮絶な外的ショックを前にして、経済活動の内なる自律性は微力だ。こういう時こそ、空白を埋めるためレスキュー隊が出動する必要がある。速やかで的確な出動が求められる。魂のこもった出動でなければならない。場当たり的で点数稼ぎ的で心無い出動は百害あって一利なしだ。

 アホでもスカでもない経済政策には、魂と同時に涙がなければならない。人のために流す涙だ。他者の痛みに思いを馳せた時、溢れ出る涙だ。この間の経済運営には、魂も涙も、かけらほども無かった。

 魂と涙ある経済政策が、これからの日本経済のために取り組むべき課題は何か。当面のコロナ対応の向こう側に待ち受けているテーマは何か。それは、コロナ問題が発生する前から日本経済に内在していた問題だ。豊かさの中の貧困問題である。

 今の日本は豊かな国だ。大いなる富を誇っている。ところが、いわゆる相対的貧困率が2017年時点で15.7%に達していた(OECD調べ)。42カ国中、15位の高さだ。最も相対的貧困率が低かったアイスランドの5.4%に比して、あまりにも見劣りが著しい。この裕福な国のこの恥ずべき状況を何とかする。それが、アホでもスカでもない経済政策の最大の課題だ。

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

AERA 2020年9月14日号

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浜矩子

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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