漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「私たちはどうかしている」(日本テレビ系 水曜22:00~)をウォッチした。
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いにしえの昭和に「大映ドラマ」というジャンルがあった。たいてい不良モノや出生の秘密、あからさまなイジメに破壊力抜群なセリフと怒濤の展開がお約束だった。
例えば「乳姉妹」というドラマ。見ず知らずの松村雄基にバイクで追われ、川に逃げ込む伊藤かずえ。「あなた何者よ?」と問えば、松村は言い放つ。「俺は海鳴りだ!」
いや川だから。
そんな素敵にトンチキな大映テイストを、令和の今味わえるのが本作だ。
舞台は老舗の和菓子屋・光月庵。15年前当主が殺害され、ヒロイン七桜(なお=浜辺美波)の母親は犯人だと疑われたまま非業の死を遂げる。
成長し和菓子職人となった七桜は、光月庵の跡取り息子・椿(横浜流星)と再会。七桜の正体に気づかぬまま、椿は出会ったその場でプロポーズ。「俺と結婚しない?」
すると七桜も即答、「しましょう、結婚」。話が早い。実は大旅館の娘と結婚が決まっていた椿。その結婚式の真っ最中に七桜を呼び寄せ、花嫁&親戚一同の前で彼女とがっつりキス。「僕はこの人と結婚する」と宣言だ。
まったくどうかしてるぜ!と視聴者が思うたびに、ヒロイン七桜が心の声でタイトルセリフを連発してくれる運び(一話中4回言ったことも)。
「私たちはどうかしている、どうかしている」と刷り込まれ催眠状態になっていると、すかさず椿が壁ドンだ。
「何を信じているんだ」ドーン、「どうして一言相談が無かったのか」ドーン、「お前の目的はなんだ」ドーン、「くっそ」ドーン。
お前はドーンしないとセリフ言えないのか状態だし。そんな「どうかしている」とドーンの合間を縫って椿の母親・今日子(観月ありさ)による嫁(七桜)いびりがブッ込まれる。「疫病神ー!」と七桜の顔に花瓶の水をバッシャー。和菓子屋の女将(おかみ)というより「極道の妻たち」って風情のドスが利いた声で、「通りゃんせ」(この嫁絶対通さねぇソング)を熱唱。
「どうかしている」、壁ドン、キス、バックハグ、「通りゃんせ」のリフレイン。むしろどうかしてない人が出てこない。
和菓子を作っているシーンだって、とんでもセリフを口走るから油断ならない。いわく「あんこは自分を映す鏡だ」。今度ぜひ映してみます。トンチキよ、永遠なれ。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2020年9月18日号