私が初の最多勝に輝いた1975年のオフに少しお酒が入った時に、福本さんにさりげなく盗塁の話を振ると「ピッチャーのモーション研究しとるからな。おまえはちょっとホーム側に体が動く」と教えてくれた。今だったら企業秘密で教えてくれる選手などいないだろう。打者に向かう「気」が出ると上体が3センチほど傾くらしい。翌76年に私は初めて福本さんをけん制で刺した。体をいったん微妙にホーム側に傾けてからのけん制だった。そんなことをふと思い出した。
余談となったかもしれないが、投手にとって、それだけ「足」はやっかいだということだ。今季は日程的に6連戦が多いわけだから、救援投手はどこも登板過多となっている。疲労から隙が生まれることも多い。打撃力が格段にアップした近年の野球も相まって「足のスペシャリスト」をベンチに置く重要性は確実に増している。
ただ、守備側から言えば、この足をストップさせられたら、流れを引き戻すビッグプレーともなる。この終盤の盗塁の攻防も、優勝争いを左右する大きな影響を与える気がする。
東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
※週刊朝日 2020年9月18日号