今回、防衛省から官邸に正確な情報が上げられていれば、より的確な対応ができました。防衛省は前述のような情勢分析はもとより、イージス艦や各種レーダー、航空機を用いて、領海・領空をほぼリアルタイムで完全に掌握しているのです。

 もちろん今回も、海保と漁船が緊迫した状況にあったとき、尖閣諸島周囲に中国軍艦が出てきているか、潜水艦はどうか、航空機やヘリ、ミサイルはどういう状態か、すべてわかっていました。そして結論から言えば、中国軍はまったく動いておらず、その意味で危険はなかったのです。

 ただし、逆に自衛隊が出ていく余地がないという危険があった。まさか漁船相手に艦船を出すわけにいきません。そこが中国のあざといところです。こうしたことをすべて、防衛省は承知していました。漁船がおかしな動きをしつつあることも含めて。にもかかわらず、何もしなかったのです。

 本来であれば、遅くとも漁船の動きがあった時点で、防衛省は領土保全の観点から政府・官邸に状況報告を行い、緊急事態に対応するための助言をしなければならなかった。政府として可能な行動の選択肢を提示し、また、それぞれの選択肢ごとに必要となるであろう措置、連絡、指揮命令などを明示することです。

 いざ衝突が起こってからでは遅すぎます。防衛省の怠慢というそしりは免れませんし、こうしたことができていない以上、諸外国の笑いものになってしまうのは必定です。

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