中国は日本の危機管理能力をゼロと見て、あきれ返るとともに手をたたいて喜んだことでしょう。この時代、緊急事態や危機管理のための情報収集はもとより、それに基づいた行動計画案やマニュアルを用意していない国はないのですから。
ちなみに今回のような場合では、事前に衝突を阻止するための海上警備行動計画に始まり、実際に起こってしまった場合の対処方法、それに付随して必要となる関係方面との調整や連絡、役割分担などが遺漏なく提示されなければならなかった。簡単に言えば、艦船を出してプレッシャーをかけるとか、航空機の投入はこうする、武力行使はどうする......などということです。もちろん、身柄を拘束した場合、どんな扱いや処遇にするのかといったことも含まれます。
しかし残念ながら、こうしたことが今回なされなかった。このままいくと、帝国主義傾向を強めつつある中国は、少なくとも尖閣諸島を占有し、海洋資源と海軍の太平洋ルートを確保してしまうことでしょう。防衛省の探知能力と人員、装備や事態対応能力はあだ花というわけです。
同盟国である米国もあきれています。公言はしないものの、米国の防衛省に向ける視線は非常に厳しい。というのも、今回、防衛省は米軍との協調のために必要な作業をほとんどしなかったからです。
いや、実を言えば、民主党政権になって以降、まったくといっていいほど防衛省は動いていないのです。米側は、「なぜ背広組は長期間にわたって戦略協議の場に出てこないのか」と不思議がっています。
なお、米軍との関係では、背広組の問題はこれにとどまりません。言を左右にすることまであるのです。
直近の例をひとつ挙げると、普天間基地移転計画に関連し、米側が激怒していたのは記憶に新しい。移転先にオスプレイという大型ヘリ用のポートを設置すると了承しておきながら、地元の反発が予想されるや、そんなことは言っていないと前言を撤回したのです。米側は猛烈に抗議し、日本が引いたのですが、信用をかなり失ってしまいました。