年間700億円にものぼる休眠預金。日本にある休眠預金のうち1.7億円がコロナ禍で困窮する若者の就労支援に使われることが決まった。支援の手法には「キャッシュフォーワーク」が使われるというが……どんな方法なのだろうか。
支援にはいろんな形がある。たとえば自然災害のとき、私たちは被災地が必要とする物資を送ったり、寄付などで現金を提供したりすることもある。しかし「キャッシュフォーワーク(以下、CFW)」は、そのどちらでもない。提供するのは「仕事」。もちろん仕事をすれば、その対価としての現金が支給されるが、仕事を介することに価値があるという。CFWを研究する関西大学の永松伸吾先生は、1995年の阪神・淡路大震災のとき、その価値に気づいた。
防災を研究する永松さんが注目したのは、震災後に仮設住宅で亡くなる人たちの層。高齢者ではなく、働き盛りでもある50代の男性が目立った。先行研究を調べると、仕事を失うことで社会との接点をなくし、酒などに溺れた人が多かったという。
だが、被害の中心は大都市・神戸だ。仕事がないわけはないし、復興需要もあるはず。調べると、復興需要の中心は建設業で、商業都市である神戸には仕事が落ちず、多くが被災地の外に流れていたことがわかった。被災者は、災害によって家や日常をなくしただけでなく、仕事も、そして社会とのつながりもなくしていたのだ。
震災時は命拾いしたのに、日常に戻る過程で命を落としていく。「私は、なんのために防災研究をしているんだろう」。永松さんはさらに研究を進め、2005年にアメリカで起こったハリケーンカトリーナの事例に注目した。米国では被災者をデータベース化し、一人ひとりにきめ細かな支援を行う。その作業は被災失業者の仕事であった。被災失業者の就労支援を災害対策として行っていた。
「ハードの復興だけでなく、多面的に策を打っていることに感動しました」
CFWはもともと、途上国支援で使われていた考えだ。毎年飢饉が起こるような地域では、現金や現物を提供するのではなく「飢饉に耐えうる地域」を作らねばならない。仕事をつくり、地域の人が就労し、その対価を得ることで持続可能な地域や生活が生まれる。