ドカンの置かれた原っぱや駄菓子屋と、毎日がちょっとした冒険の繰り返しだった。そんな自分の子供時代を思い出しながら、僕は泉さんの後をついて行った。

「浅田飴の工場もあって、ニッキの匂いがしていてね。目白映画という映画館で小6の春休みにもらったチラシはいまだに持っています。昭和23年創業の喫茶エデンはジャズ喫茶の走り。エアコン付きだから漫画家も打ち合わせにね。そうそう、赤塚さんと石ノ森章太郎さんもよく来て、どうやら店のウエイトレスにはまっていたらしい」

 泉さんの発言に資料を当たると、あったあった。「石森もぼくも若かったから、女の子と友達になりたい。近所に“エデン”という喫茶店があったので、毎日のように入りびたっていた。この店に女の子が二人いる。ポール・アンカがやってきて、浅草国際劇場でショーをやるという。彼女たちを連れて行こうということになった……」(同前)。ところがトキワ荘仲間の水野英子が付いてきそうになり、どう撒(ま)くかの顛末が赤塚不二夫の筆で描かれる。

 コロナ禍で東京者は他道府県に行くのが憚(はばか)られる。ならば、こうして故郷の東京を散歩し、ずいぶん前に過ぎ去った自分の少年少女時代を振り返るのも一興かもしれない。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2020年9月25日号

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