公衆トイレのあり方について、ダイナックス都市環境研究所の山本耕平所長はこう指摘する。

「公衆トイレはその地域の住民だけではなく、宅配便や建設現場など、屋外で働く方にとっても欠かせないものです。衛生面の問題や犯罪の可能性を危惧する方も多いですが、社会に不可欠なインフラとして適切に管理し、住民に理解してもらえるよう働きかける必要もあります。渋谷区の動きをきっかけに、日本中にいい公衆トイレが広がるといいですね」

 フードデリバリーサービス「Chompy(チョンピー)」配達員の男性(26)は、代々木深町小公園に入ると背負っていた配達用バッグをベンチにおろし、トイレに向かった。

「これまではコンビニで借りることが多かったのですが、トイレがきれいになってから公園での休憩がてらに使っています」(男性)

 きれいなトイレは、使う人を幸せにする。だが、それを保つ努力が欠かせない。日本トイレ研究所の代表・加藤篤さんは今回のプロジェクトをこう見る。

「トイレは地域を映す鏡。デザインがよくても、きれいに使い、きちんと掃除をしなければあっという間に劣化する。作って終わり、ではなく、安心して使える環境を維持する仕組みを地域全体で考えていく必要があります。これから出てくる課題に対応しながらトイレの価値を上げていくことが求められます」

 渋谷区ではこれまで日に1度ほどだった清掃を、改修後のトイレでは3回に増やすなど衛生面にも意識を向ける。TOTOの監修のもと、掃除しやすいトイレの配置や素材にもこだわった。日本財団経営企画広報部の佐治香奈さんは言う。

「トイレのメンテナンスについての協議会を月に1度開き、日々改善していきます。公共トイレは、暗い、汚い、臭い、怖いなどの理由で、利用者が限られていた。このプロジェクトをきっかけに、公共トイレへの意識を変えることができればと思っています」

(編集部・福井しほ)

AERA 2020年9月21日号

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