代々木深町小公園/建築家・坂茂さん設計、8月5日利用開始。入る前に中の様子がわかる。外壁のガラスは通電時には透明だが、鍵をかけて電流を遮断すると曇りガラスになる(撮影/写真部・高野楓菜)
代々木深町小公園/建築家・坂茂さん設計、8月5日利用開始。入る前に中の様子がわかる。外壁のガラスは通電時には透明だが、鍵をかけて電流を遮断すると曇りガラスになる(撮影/写真部・高野楓菜)
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 暗い、汚い、臭い、怖い。そんなイメージから、公衆トイレを使うことに抵抗を持つ人は多い。だが、渋谷区に個性豊かなトイレが次々と誕生、従来のトイレ観を変えつつある。AERA2020年9月21日号の記事を紹介する。

【写真特集】渋谷区に個性豊かな公衆トイレが次々と誕生!

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 東京・渋谷の喧騒から離れ、瀟洒な住宅が立ち並ぶ代々木公園駅周辺。駅から程近い代々木深町小公園は、小さめの複合遊具やブランコ、砂場などがあり、昼間は子どもたちでにぎわうごく普通の公園だ。8月5日、ここにひときわ目立つ“ガラスの箱”が登場した。

 紫、ピンク、オレンジのカラフルな壁面の向こうに透けて見えるのは、真っ白な便器。外から丸見えの「透けるトイレ」だ。もちろん用を足す姿まで見られぬよう、鍵をかければガラスは曇る。通電すると透明になる特殊な曇りガラスを用いているのだ。鏡張りの室内には自分の姿が映し出され、ちょっと非日常な空間が広がる。

 この透けるトイレ、日本財団の「THE TOKYO TOILET」によって誕生した。このプロジェクトには安藤忠雄さんや隈研吾さんら、16人のクリエイターが参画。8月31日までに渋谷区内の6カ所のトイレが、9月7日には神宮通公園のトイレも生まれ変わり、来年夏までに渋谷区内17カ所に新しい公共トイレが設置されるという。

 透けるトイレを手掛けたのは、坂茂(ばんしげる)さん。公衆トイレには、中が清潔か、誰かが隠れていないかなどの心配が付きまとう。そこで、もとのトイレを改修し、入る前に中がチェックできる透明トイレに生まれ変わらせた。

 5歳の息子と3歳の娘と公園を利用した女性(41)は言う。

「以前はトイレに入る前、物陰に人がいないか、防犯を意識していました。それが今は、先にある道路まで見通せる。子どもたちはトイレに入るたび『臭い』『汚い』とこぼしていたのに、今は何も言わなくなり、トイレを我慢することもなくなりました」

 新しく誕生したトイレはどれもクリエイターの個性が光る。SNSでも注目を浴び、各トイレをめぐるマニアも出現。海外の観光ガイドブックへの掲載も決まった。新型コロナウイルスの感染が落ち着き、訪日外国人が戻ったときの観光スポットとしての期待も寄せられている。

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