子役出身のドランは、演技にも才能を見せる。近年では「ある少年の告白」(18年)や「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」(19年)などで印象的な演技を披露した。

「監督として多くの賛辞をもらった一方、嫌悪にあふれた批判も受けた。理解できる批判も、ばかげた批判もあった。ここ10年は、批判を浴びながら自分を見つけようとしてきたんだ。でも今はそれが必要ではないと感じている」

 31歳になった今、「これからの時間は他の人と一緒に仕事をすることに費やしたい」と明かす。

「監督をすることは多くのエネルギーを消耗する作業だから、難しくなってきた。40歳になった時、60歳になったような気分になりたくないんだ。これからは演技に専念したいと思っている。監督をするより満足感が高いし、ずっと解放感もあるから」

◎「マティアス&マキシム」
二人の青年の揺れ動く感情の行方は──。9月25日から東京・新宿ピカデリーほか全国公開

■もう1本おすすめDVD 「ある少年の告白」

 プロデュースや監督もこなすオーストラリアの俳優ジョエル・エドガートンの2本目となる監督作。ガラルド・コンリーが自身の体験を綴った小説『Boy Erased』(2016年)をもとに、エドガートンが脚本を手掛けた。

 米アーカンソー州の保守的な町に住む主人公ジャレッドは、自身が同性愛者であることを両親に告白。バプテスト教会の牧師の父は困惑し、ジャレッドの性的指向を矯正治療するため、彼を施設に送り込むのだった。

 映画は施設での体験や両親との関わりを、主人公の繊細な視線で描いていく。ジャレッドを演じたのは「レディ・バード」(17年)や「スリー・ビルボード」(同年)などで見事な演技を披露したルーカス・ヘッジズ。オーストラリアの大スターであるラッセル・クロウとニコール・キッドマンが両親を、施設に入所している少年の一人をグザヴィエ・ドランが演じた。

 自身の正しさを疑わない父と、父を尊敬する息子の衝突が痛々しい。何よりも驚くのは、科学的根拠のない矯正治療を行う施設が実在すること、そして、これがわずか16年前の実話に基づいた映画である、ということだ。

◎「ある少年の告白」
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年9月28日号