アンケートからは「マナー違反」「対面」「接近」を避けたい鉄道利用者の意識が浮かぶ。コロナ禍前の通勤電車なら、立っている間隔が2メートルなど望むべくもなかったが、現在では「許せるライン」が一変していることがわかる。
調査を担当したNRI戦略IT研究室の佐野則子さんは言う。
「鉄道各社はこれまでも感染症対策に尽力してきましたが、利用者は物理的距離の確保やマスク未着用などに不安が残っており、不安を解消するための施策がまだ必要なことがわかります」
意外だったのは地域性だ。鉄道車両内で不安を感じているのは平均が82%で、関東や近畿が平均以下なのに対し、中部、北海道、中国、四国、東北、九州のほうが不安を感じている人が多かった。
■感染自覚なくても着用
「自動車検査登録情報協会によれば、今年3月末時点で自家用乗用車の世帯当たり普及台数は1.043台で、1台に満たないのは首都圏や大阪、京都、兵庫など関東、近畿が多い。自家用車の保有率が高い地域ほど、鉄道利用に不安を持った可能性もあります」(佐野さん)
実際、電車内での感染リスクはどうなのか。
早稲田大学の田辺新一教授(建築環境学)は「感染経路を正しく知り、互いの思いやりと自己防衛でリスクを避ける」よう呼び掛けている。
新型コロナの感染経路は主に飛沫感染、接触感染が挙げられる。混雑する電車内ではとりわけ、飛沫の発生源を封じるマスクが重要だ。5マイクロメートル以上の飛沫はマスクでほぼ防げる、と田辺さんは言う。
「発症前の人が感染させる確率は5割近くと言われています。大事なのは感染の自覚のない人を含む乗客全員のマスク着用。マナーの徹底が求められます」
接触感染も気になるが、つり革などに付着したウイルスに手で触れただけでは感染しない。目鼻口の粘膜にウイルスの付いた手で触れたときに、感染リスクが生じることに留意したい。
■見落としがちなのが目
田辺さんの研究チームが電車内を模した空間で男女40人の動作を動画解析したところ、1時間あたりの顔面への接触頻度は平均17.8回で、このうち口や鼻、目などの粘膜面への接触頻度は平均8回だった。
「私は常にアルコールジェルを持ち歩き、電車に乗った後、顔を触る前に必ず手を洗うようにしています」(田辺さん)