「人はなぜ異物を排除するのか」

 そんな思いを監督は流れる川と同じ速度で問いかける。「絶えず変化する川の流れを意識した。大切なのはメリハリとテンポなのです。次々に起こる出来事を観客が体験し、感情を揺さぶられながらも問題解決の糸口を自ら見つけるためです」

 物語後半、老いた兵士、司祭、寡黙な狙撃兵らに出会う場面で幾分ほっとするが、それも束の間、少年が拳銃を手にした時点で現実を突きつけられる。

 子供の過去は信じられないほど浅い水域なのだと言う。

「過去に多くを学ぶ大人のように未来を想像することはできない。子供は数日先までしか考えられないのだから」

 殺しあう大人たちを見て復讐には人を殺してもいいと思ってしまう悲劇まで用意されている。

「少年は紛争で親を失った数十万の子供たちの代表。これは今起きている世界の紛争と同じです」

 モノクロームの画面随所に黒澤明へのオマージュが。例えば『七人の侍』のように荒れ狂うコサック兵士は圧巻だ。

 最後にそれを尋ねると、「意識はしなかったけれど、黒澤作品に影響を受けているかもしれません。そう言われて振り返ると確かにその通りだ」と画面の向こうで微笑んだ。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2020年10月16日号

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