延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー
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映画『異端の鳥』/10月9日 TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー(c)2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVIZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY
映画『異端の鳥』/10月9日 TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー(c)2019 ALL RIGHTS RESERVED SILVER SCREEN CESKA TELEVIZE EDUARD & MILADA KUCERA DIRECTORY FILMS ROZHLAS A TELEVIZIA SLOVENSKA CERTICON GROUP INNOGY PUBRES RICHARD KAUCKY

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、国際的な映画祭で注目された映画『異端の鳥』について。

【映画「異端の鳥」の写真はこちら』】

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 ヴェネツィア国際映画祭では映像の過激さに耐えきれず、席を立つ者が相次いだというが、僕は本作の荘厳さ、慈しみ、愛と聖性、主人公の少年の透徹した眼差しに圧倒されて陶酔し、3時間近くにも及ぶ本作を繰り返し鑑賞、それでも飽き足らず、チェコに住む監督を捕まえてZoomでインタビューしてしまった。驚異的な傑作に相応(ふさわ)しく、孤絶を恐れぬ固い意志と大きな希望を抱く監督だった。

 ヴァーツラフ・マルホウル監督・脚本の『異端の鳥』は、第2次大戦の中、ナチのホロコーストから逃れた少年が行く先々で差別と迫害に遭い、東ヨーロッパの大自然に抱かれながら成長する物語。名もなき善人が冷酷な悪魔となり、少年を異物とみなしこぞって抹殺しようとする。

 監督は少年に手を差し伸べるわけではなく傍観者に徹している。

「私の挑戦は観客をその旅に連れて行き、希望に導くことだ。そのために断固として哀れみを避け、使い古された決まり文句、人工的な感情を呼び起こす音楽を排除した。絶対的な静寂はどんな音楽よりも際立ち、感情的に満たされる」

「白黒の画面は真実に迫るため。カラーでは商業的作品になり大惨事を免れない」

「英語も排除。ストーリーの信頼性が失われてしまう」

 英語で撮らなかったわけを再度訊くと、「だって、三船敏郎が英語を喋ったらおかしいだろう」

 考えてみれば、英語は異端ではない。監督はこうして物語を不成立にする既存の常識をカットしていった。

 映像化の権利の取得に22カ月、用意したシナリオは17種類、ヨーロッパ中のプロデューサーに断られながら資金調達に4年。

 登場人物は人工言語スラヴィック・エスペラント語を話し、撮影に2年を費やしたのは少年の成長と物語の進行を重ねるためだった。

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