ワイル博士はハーバード大学医学校で学位を取得したのち、既成の医学界で働くことをやめます。大学や病院で学んだ治療の大半は病気の根本的な原因を放置したまま、症状を抑えつけるか覆い隠すものばかりだと感じたからです。博士はどうすれば本来の治癒力を得られるか知りたいと、合衆国の隅々、中米、南米、東アフリカ、アジアと世界中を旅して、12年間にわたりあらゆる治療法を調査研究しました。その経験のうえに冒頭の見解があります。
これと共に博士が指摘するのが「信頼の三角形」です。これはどんな治療法でも、効果を発揮するために必要不可欠になる条件なのです。
「(1)患者さんがその治療法の効果を信頼している(2)主治医もその効果を信頼している(3)患者さんと主治医が信頼関係で結ばれている」。患者さんはともかく、主治医が効果を信じていないことがあります。そして、医師と患者さんの信頼関係。残念ながらこの三角形の実現が難しいのが現状なのです。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年10月16日号