日本学術会議は税金で運営されているわりには、存在意義が曖昧で運営も不透明な組織である。筆者はそれを批判するつもりはない。学者の世界は常識で測れないことが多いからだ。しかし多くの国民はその説明では納得しないだろう。政権はそのことをわかっていて、だからこそ同会議を最初の「敵」に選んだのではないか。実際ネットでは、政権批判と同じくらい会議批判が広がっている。

 学問の自由は大切である。それは絶対だ。しかし日本学術会議を自由の旗にすることがどれほど市民に支持されるか、筆者はいささか心許ない。マスコミは例のごとく沸騰し野党は国会論戦に持ち込む構えだが、同じことは「モリ、カケ、桜」でさんざんやった。その結果がいまの盤石の支持率である。政権は内心「しめしめ」と思っているかもしれない。

 権力はつねに反権力の動きを考慮して戦略を組み立てる。それをだしぬくには、政権以上の狡猾さが必要だ。

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2020年10月19日号

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