年内にも開催か中止かが決まるとされる東京五輪について、動きが慌ただしくなってきた。11月にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が来日し、菅首相と会談すると報じられたのだ。開催に前向きなメッセージを発することで調整が進んでいるという。
菅首相は政権発足直後の9月23日、バッハ会長と電話会談し緊密な協力を確認。同26日には国連総会のビデオ演説で「来年夏、人類が疫病に打ち勝った証しとして開催する決意だ」と述べた。五輪開催を国内外に必死でアピールするようなこうした動きの理由は何か。元日本オリンピック委員会(JOC)職員でスポーツコンサルタントの春日良一さんはこう語る。
「元々、東京五輪はアベノミクスの一翼を担う想定だった。だからこそ安倍晋三前首相も前面に出て開催をアピールしてきた。アベノミクスの継承をうたう菅首相は開催に向け全力を尽くさざるを得ない立場なのでしょう」
五輪開催の経済インパクトは大きい。東京都は招致が決まった2013年から30年までの長期的な経済効果は全国で約32兆円に上ると予想している。それだけに、中止のダメージも深刻だ。関西大学の宮本勝浩名誉教授は「1年間の大会延期で約6400億円、中止なら約4兆5千億円の経済的損失」と予想する。
「五輪が中止された場合、期間中の運営費や観客が使うお金、企業のマーケティング費用など、経済効果はほとんどなくなります。大会後のスポーツイベントや観光などのレガシー効果も延期の場合より大きく減ってしまう」(宮本さん)
第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣さんも、大会が延期や中止されれば、その年だけで「3兆円以上の損失」を見込む。
「中止になった場合の影響の中で深刻なのは、日本人や外国人の旅行客がお金を使うことによる特需が失われること。数字では測れませんが、国民の心理的なショックも大きいでしょう」
こうした事情を考えると、多少強引でも五輪を開催するしかない、というのが菅首相の考えのようだ。ある自民党関係者は、党内でささやかれる菅政権の“必勝シナリオ”を語る。