雑誌や広告で活躍し、旅をテーマにした作品でも知られる写真家の田尾沙織さんは2015年秋、息子の“奏ちゃん”を500gで出産した。予定日まで3カ月半、妊娠25週4日のことだった。
【写真】500gで生まれた赤ちゃんはこんなに大きくなりました
心の準備をする間もなかった出産、そしてNICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児治療回復室)に入院して、生後8カ月で退院するまでの256日間を写真と文で記録した著書『大丈夫。今日も生きている』を出版した。
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■「お母さんも危ない」と言われた出産
――こんなにか弱い命を今まで見たことがなかった。想像していた出産とは違いすぎた。
田尾さんは出産直後にわが子を見たときの気持ちをこう記している。
妊娠6カ月を過ぎたころ。元気な胎動を感じていたが、定期健診で「赤ちゃんが小さい」と告げられ、すぐに入院することになった。そのわずか2日後には「胎児の心拍が弱い」と診断され、帝王切開での出産が決まった。
「帝王切開って何?という状態で手術が始まりました。自分の出産を撮影してみたかったのですが、『おなかで赤ちゃんが亡くなったら、お母さんも危ない』と言われ、カメラを持っていくのは思いとどまりました」
あっという間に手術は終わり、おなかから取り出された赤ちゃんは処置のためすぐに田尾さんの前からいなくなってしまった。戻ってきたときに見たのは、気管挿管のため口に管が通され、保育器に寝かされた姿だった。大きさも手のひらほどだったという。
「信じられないほど小さかったんです。男の子って言われたけど全然わからない。管のせいで声も出ない。でも、足をバタバタさせていたので生きているんだって」
赤ちゃんはそのままNICUに入院し、医師には72時間が山で、それを乗り越えても、まだいくつも山があると告げられた。実際、おなかの外に出ても肺が膨らまず、心臓の動脈管は開いたままだった。たとえ生きてくれても一生、酸素ボンベが必要かもしれない。寝たきりかもしれない。
こうやって生まれたのは正しかったのだろうか――。