日本学術会議が推薦した候補6人を任命しなかった問題や、故・中曽根康弘元首相の葬儀に際して教育現場に弔意表明を求めた問題など、早くも菅政権の強権的な面が見え始めた。菅首相のこうした手法は、官房長官時代からのもののようだ。AERA 2020年11月2日号では、菅首相の政治姿勢に迫った。
【写真】中曽根元首相への黙とうなどを求めた文部科学省の通知はこちら
* * *
戦前の言論統制を彷彿とさせるような問答無用路線を突っ走る菅首相は官房長官時代から、自身に異論を唱える官僚を冷遇してきた。自ら導入を推進したふるさと納税の拡充を巡り、懸念を進言した総務省の担当局長を通常ではあり得ない自治大学校長に異動させたことはよく知られている。ジャーナリストの青木理氏が言う。
「ある官僚は、初対面の菅氏から『俺は官僚を動かすのは人事だと思っている』と機先を制されて驚き、実際その後に人事権を振りかざして気に入らない官僚を飛ばしまくるので辟易したそうです」
たたき上げの剛腕で知られ、総務大臣(当時は自治大臣)、官房長官と歴任した閣僚ポストも似通っていた故・野中広務氏との共通点もあるのではと問いかけた青木氏に対し、この官僚は真顔でこう答えたという。
「人の痛みに真摯に寄り添う本物の政治家だった野中さんに対して失礼ですよ。野中さんの人道的モチベーションを取り払って剛腕だけ残したのが菅さん。おじいさんの岸信介さんから知性を取り除いたら安倍晋三さんになるのと似ています」
横浜市で権勢を振るった故・小此木彦三郎元建設大臣に秘書として仕え、横浜市議から衆院議員にステップアップした菅首相は、官房長官時代は忠臣としてスキャンダルまみれの安倍首相のトラブル処理に尽力した。それは権力の階段を上るためにこなす作業であり、政治的なモチベーションなど必要なかったのだろう。それと同じ「理由なき忠誠」を、部下にも強いているのかもしれない。
■新自由主義信奉も懸念
そして菅首相は、安倍政権時代には表舞台から消えていた元総務大臣でパソナ会長の竹中平蔵氏や、英国出身の元金融アナリスト、デービッド・アトキンソン氏をブレーンとして重用、各方面から疑問が投げかけられている。