文房具やおしゃれなシャツなどもさり気なくあり、センスがいい。
「出来るだけ地元の人たちが作っているものを置いて、住人が楽しめる空間を作りたい」という思想なのだという。
「でも、コロナでたいへんでしょう?」
といったら、
「それが、去年より売り上げがいいんですよ。地元の人や別荘族がこの機会に本を読みたいといって来て下さるんです。九月の四連休からさらに増えました」
「へぇー良かった。でも、お休みした時期はあったでしょう?」
「いえ、一時期、営業時間を短縮しただけで一度も休んでいません」
それにはそれなりの工夫があったのだ。
西側のスーパーに近い入口附近はカフェになっていて、静かに読書する人、コーヒーを楽しむ人、みな一人でやりたいことをやっている。私の山荘のお隣のお嬢さんも常連でパソコンをしに来る。
喋る人は誰もいない。
コロナ以来、移住者も増えている。地域に根ざした地域の人に愛される書店に成長していることが嬉しい。
隣のスーパーで買い物を終えたつれあいが迎えに来た。今日の夕食は何だろうか。
※週刊朝日 2020年11月6日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数