ワクチンの有用性を巡っては、10月になって医学誌「ランセット」に気になる症例が発表された。米ネバダ州在住の25歳男性が、新型コロナに再感染し、2回目の感染のほうが症状が重くなったという。こうした事例はまだ数例しかないというが、一度感染しても免疫が働かない可能性があることになる。ワクチン接種で抗体ができても、感染や重症化を防げないのではないかとの見方も広がった。当然、ADEへの不安も拭えない。

 日本ワクチン学会理事長の岡田賢司・福岡看護大学教授がこう説明する。

「わずか数例では、なぜ2度目の感染で重症化したのかはわかりません。ワクチン接種ではなく、感染によってできた抗体がADEを起こす可能性も理論上はあり得ます。ADEに関しては多くの関係者が心配し、研究も進んでいますが、現時点でコロナに感染している状態でADEが起きたという論文は見当たりません。ただ、世界中の人たちがワクチンを打つようになれば起きないという保証もないのです」

 悪玉抗体ができる心配は尽きないが、ワクチンには抗体をつくる以外の有効性も期待されている。

 というのも、抗体は細胞に入り込んでしまったウイルスを攻撃することはできないが、先にも少し触れた「キラーTリンパ球」や「マクロファージ」と呼ばれる免疫細胞が、感染した細胞ごとやっつける「細胞性免疫」という防御方法がある。

 岡田教授が続ける。

「抗体が下がってきても、細胞性免疫が働けば、発病することは稀(まれ)です。水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルスが典型的で、細胞性免疫がしっかりしていれば帯状疱疹は発病しません。多くのウイルス感染症に対しては抗体も大事ですが、細胞性免疫はもっと大事です。コロナワクチンでも初期試験のデータを見ると、細胞性免疫も誘導できているようです」

 新型コロナの研究はまだ途上だ。技術革新が進み、より有効性と安全性の高いワクチンが開発されることを期待したい。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2020年11月6日号より抜粋

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