急ピッチで進むワクチン開発を危惧する声があるなか、スピード感を抑制する動きも出てきた。

 米食品医薬品局(FDA)は、最終段階の数万人規模で行う第3相試験の被験者の一部を2カ月間、経過観察することを求めた。

 最も進んでいるファイザーでも、FDAに申請できるのは早くても11月後半になる見通しだ。11月3日の大統領選前の実用化を訴えるトランプ大統領を牽制(けんせい)し、ワクチンが政治利用されることに危機感を示した形だ。

 ナビタスクリニック理事長の久住英二医師は、「拙速な開発を進めるということは、政治家の都合でしかありません。たとえ早く製品化されたとしても、人々が警戒してワクチン接種を忌避するような事態になってしまっては何の意味もありません」と指摘し、続ける。

「第3相試験の参加者はせいぜい2万~3万人に過ぎないから、10万人に1人とか100万人に1人にしか起きない重篤な副反応はわからず、市販後の調査でしか明らかになりません。ですから、十分な手続きを踏んでから承認したほうが、結局は接種率が上がるのです。最終的にはデータをしっかり見て判断することになりますが、私はコロナワクチンが実用化されれば使いたいと思っています」

 多くの課題を抱えるワクチンだが、それでも医師らは「治療薬とともに必要不可欠」と口をそろえる。医療ガバナンス研究所理事長の上(かみ)昌広医師がこう語る。

「第1波では肺炎で死亡するケースが多かったのですが、ステロイド剤を投与するなどかなり処置がうまくできるようになっています。一方で、さまざまな合併症が起きることが最近の研究で明らかになりました。例えば、心臓の筋肉組織に炎症がある心筋炎。将来的に心不全になり、突然死する恐れもあるのですが、コロナ感染症で無症状だった人からも見つかっています。他にも、妊娠中の女性が感染すると重症化しやすく、死産のリスクが高まるとの報告もあります。無症状や軽症で済むならいいという話ではなくなっている。開発には多くの困難はあると思いますが、ワクチンは絶対に必要なのです」

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