ヨ・ラ・テンゴPhoto by Noah Kalina(写真提供:ビートインク)
ヨ・ラ・テンゴ
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奈良美智Photo by Ryoichi Kawajiri(写真提供:ビートインク)
奈良美智
Photo by Ryoichi Kawajiri(写真提供:ビートインク)

 アメリカでは現在、新型コロナウイルスの感染者が2日連続で8万人を超えているという。4月と7月に続く「第3波」とも言える緊急事態になっている。ほぼ全土にわたって多くのショップが経営の危機に瀕(ひん)し、ニューヨークでは老舗の人気独立系書店『ストランド・ブック・ストア』も窮状を訴えるまでになった。ショービズ、エンターテインメント業界も今後の見通しは全くたっていない。音楽業界では大型フェスやイベント、ツアーは2021年以降に延期とされてきた。だが、秋になっても来年以降、確実に行われるかどうかは全くわからないままだ。配信ライブやバーチャル・イベントがやや飽きられ始めているいま、アイデアや企画力はもちろんだが、最終的にはミュージシャンたちが潜在的に持つ「アーティスト・パワー」が明暗を分けるような時代になっているとも言える。

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 そういう意味では、辛酸をなめてきたベテラン、中堅がこれからは強いかもしれない。79歳のボブ・ディランが今春に発表した作品がこれまで以上に高く評価されたのは、もちろんその内容が素晴らしいからではある。一方で、何かと不安が募る現在、経験豊かな彼の存在と言動にリスナーが安心を覚えることができるから……という理由もあるような気がする。つい先ごろ、71歳のブルース・スプリングスティーンもニュー・アルバムをリリースしたが、本国での評判はすこぶるいいようだ。

 そのブルース・スプリングスティーンと同じニュージャージー州出身のバンドにヨ・ラ・テンゴという3人組がいる。1984年結成なので今年で36年。人なつこいポップな歌ものの曲を中心に、時には即興を思わせる緊張感ある演奏を、また時にはアンビエント、時にはノイズ……と表情を変えながら十分すぎるほどのキャリアを重ねてきた。

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