

人生100年時代に避けては通れない、親の介護問題。特別養護老人ホーム(特養)などに入れることも選択肢の一つだ。しかし、入所後の思わぬ悩みも……。ともに要介護3の父(87)と母(81)がいる記者(次女)が実際に悩んだ体験を専門家の意見を交えながら紹介する。
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両親を入所させても、一段落とはならなかった。まもなく施設から「(母が)転倒した」と連絡が入った。10日間で数度転び、頭も打った。いずれもスタッフが見ていなかったときだという。後日、嘔吐もあった。
病院で検査を受けたが、脳に異常は見られなかった。ただ、付き添った姉は1カ月ぶりに会った母の姿に驚いていた。
「別人のようで残念」
終始うつむき、声量も落ちた。職員によると、いつもウトウトする傾眠傾向になり、食事も少ししか食べなくなったという。
記者が後日、病院に連れていくと、担当医から「意欲の問題」と言われた。記者と口げんかできなくなったからか。しかし、コロナ禍では面会できない。頼れるのは職員だけ。母の生きる意欲を高めるために、忙しい職員にどうお願いをすればいいのか。
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんは言う。
「大事なのは、人間同士のコミュニケーションです。主張や命令という形ではなく、希望を伝え、『何か私にできることはないですか』という感じで、感謝の気持ちを伝えながら話してみたらどうでしょうか」
クレーマーになる一、二歩手前ぐらいで話すのが望ましいという。
「コロナ禍で今はしていなくても、一般的に多くの施設では七夕イベントとか家族懇談会のようなものがあります。できるだけ参加し、職員さんと交流することも有効です」
親を施設に入れれば、スタッフが24時間いるから安心、と考える人は多い。記者もその一人だった。
「施設に入れば万々歳、というわけでもないのです。施設内での転倒もよくある話です。スタッフが四六時中見られるわけでもないですから」