今もまだ残る古き良き店を訪ねる連載「昭和な名店」。今回は渋谷の「魚料理 のじま」。
【写真】魚屋として店を構えて110年。いまも仕出しなどの注文を受ける名店
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再開発が進む渋谷駅に近い並木橋のたもとで、明治の頃から魚一筋で商いをする老舗がある。店構えは一見、魚屋に見えるが、中に入るとカウンターがあり、天然の魚料理をふるまう店として評判を呼ぶ。昼どきは定食目当てのサラリーマンたちに人気だ。
「地元の金沢で魚屋をやっていた私の祖父が、東京で一旗揚げるために上京して明治43年にここで『魚仁』という魚屋を開きました」と話すのは83歳の3代目主人、能嶌外茂治さん。戦時中は店を閉じるも戦後、店は復活した。
仕出しの注文も多く、店が繁盛するなか、父親である先代から「これからの時代は魚屋だけでは駄目だ。時代に乗っていかないと」という教えを受け、1989年に魚料理の店を始めた。
「うちのオヤジは一度だって養殖ものを売ったことがなかった。天然に勝るものはないって教えられましてね。それだけはずっと守ってきました」
昼は焼き魚、煮魚、刺し身定食のほか、天然ブリ丼を提供。魚はその日の仕入れで変わるが、いまは脂がのった秋サバや太刀魚がおすすめ。夜は居酒屋となり、運が良ければ銀座で数倍の値がつく大間のマグロに、良心的な値段でありつけるのもありがたい。
(取材・文/沖村かなみ)
「魚料理 のじま」東京都渋谷区渋谷3‐15‐9並木橋ビル1F/営業時間:11:00~15:00 18:00~21:00L.O.(土は昼のみ営業)/定休日:日祝
※週刊朝日 2020年11月6日号