新型コロナワクチンの開発競争で、すでに2種類を承認しトップを走るロシア。日本に輸出や現地生産の対応など協力的な姿勢を見せている。外交の駆け引きに利用されるのではないか。AERA 2020年11月9日号で、駐日大使は「ワクチン外交」の懸念を否定する。
【写真】新型コロナワクチン「スプートニクV」を開発したロシア国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所の研究員
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16年5月にロシアのソチで行われた日ロ首脳会談で、安倍晋三首相(当時)は経済交流促進に向けた8項目の協力プランを提示しており、その1項目目が「医療水準を高め、健康寿命の伸長に役立つ協力」だった。
実際にロシアでの病院建設プロジェクトやがん治療に関する協力覚書の締結、感染症診断システムの共同開発、抗結核薬のライセンス契約などが進んでおり、新型コロナ対応でも日ロ合弁企業の「エボテック・ミライ・ゲノミクス」が国際協力銀行とロシア政府系ファンドの投資を受け、検査キットの開発を進めている。60年代初期には、日本で大流行したポリオ(脊髄性小児まひ)に対して旧ソ連から抗ポリオワクチンを調達し、感染拡大を収束させた歴史もある。
一方で両国間には長年解決されていない北方領土問題が横たわる。その他の政治的課題も含めた交渉を有利に運ぼうとする「ワクチン外交」の狙いはないのか。記者の問いを、ハイル・ガルージン駐日ロシア特命全権大使は一笑に付した。
「そんな懸念をされる方がいらっしゃいますか。我々はそれほどシニカルではないし、政治的な意図抜きでコロナ対策を進めています。これは医療だけでなく経済分野においても一貫しています。ドイツを始め西欧の一部の国には天然ガスの3割以上を、日本にはLNG(液化天然ガス)の7~8パーセントを供給していますが、我々は一度たりとも政治的理由で輸出を止めたことはありません。それが責任ある供給国の態度だからです」
■状況似通った日ロ両国
欧州では10月以降、新規感染者が今春を上回る勢いで急拡大している。スペインでは自治体をまたいだ移動が制限され、1日あたりの新規感染者が5万人を超えたフランスでは12月1日までの約1カ月間、全土を再びロックダウンするという緊急事態に陥っている。ロシアの現状はどうなのか。