那須川は「同じ競技にやりたい人がいない」とRISEのVTRにおいてコメント。皇治戦は勝ち負けでなく、那須川が“倒すか否か”という点で見られており、“どちらが勝つか”という、そもそもの格闘技的論点からズレてしまっていた。

 だが、結果においてKOがあったにしても、まず注目されてしかるべきは“どちらが勝つか”ということ。すでに那須川はキックボクシングにおいて、この基本原則が成り立ちにくい存在となってしまっている。

 関係者が伝える那須川のベストウェイトは55kg。対戦が期待される武尊は60kg級に上げてから2年半以上が経過しており、階級制の競技として厳密に見るなら契約体重での特別試合、スーパーファイト扱いとなる。

 判定結果が議論を呼び、再戦が期待されたロッタンは一度は19年の『RISE WORLD SERIES』に参戦が発表されたが、後に出場が取りやめに。その後ONE Championshipでムエタイフライ級王者となり、ロッタン本人、そしてONEのチャトリCEOも那須川との再戦を望んだが、2度目の対戦は実現していない。

 武尊との対戦、ロッタンとの再戦を望む声は多いが、どちらもこれまで気運がありながら実現に至ってない現状を見ると、やはり思った以上に契約上の問題解決や様々な調整が困難であるのだろう。今後超法規的措置で対戦が実現する可能性はあるが、すでに各選手は往く道を違えてしまったのかもしれない。

 人の一生の比でなく、選手寿命は短くあっという間に過ぎていく。那須川は試合後のマイクで度々夢や目標を持つことの大切さを語ってきたが、同じ競技にやりたい人がいない=目標が持てないのであれば、やはりそれが持てる新たな舞台へ向かうのが得策だろう。常に成長が必要となる戦いの世界で、停滞は後退と同義語だ。

 同階級の相手がいなくなるまで戦い、階級上での対戦にも応じ、それでも無敗を続けてきた。かつて那須川は「やりきった」思いで空手からキックボクシングへ転向したというが、今は同様の思いをキックボクシングに抱いているのかもしれない。

 そんな那須川にキックボクシングで待つのはRIZIN大晦日、そして挑戦者決定トーナメントを勝ち上がった志朗戦と、責務を果たす戦いか。もういつ来てもおかしくない、キックボクサー那須川天心の締めくくりを惜しむ思いで見守るしかない。(文/長谷川亮)