「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のパンフレット(撮影/写真部・高橋奈緒)
「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」のパンフレット(撮影/写真部・高橋奈緒)
この記事の写真をすべて見る

 コロナ禍にありながら、歴代最速で興行収入100億円を突破した劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」。「鬼滅の刃」は主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が、鬼になった妹・禰豆子(ねずこ)を人間に戻すため、鬼殺隊(きさつたい)の仲間とともに、鬼と戦う物語。一大ブームの理由を探る。

※【“全集中”の元の言葉は? 今からでも間に合う「鬼滅の刃 入門編」】より続く

「鬼滅の刃」がなぜこんなにヒットしたかなどについて、キネマ旬報元編集長で映画評論家の植草信和さんに聞いた。

「コロナ禍で閉塞状態にある今、『鬼滅の刃』に出てくる鬼を新型コロナウイルスと捉え、戦う炭治郎に共感した人が多いのではと思います」

 植草さんは劇場で、これまでのアニメ映画と客層や雰囲気に違いを感じたという。

「老若男女、あらゆる層の観客がいましたね。アニメ映画では珍しい現象です。興行収入では、アカデミー賞受賞作『千と千尋の神隠し』(2001年)が打ち立てた308億円超えでしょう」

 つまり「鬼滅の刃」を見ることは“日本一”のアニメが生まれる瞬間を分かち合えるということだ。

 長く日本のアニメ映画のメインストリームにあった作品とは全く趣が異なると指摘する。血が飛んだり、首がはねられたりといった残酷なシーンは強烈なインパクトを残す。自然描写もひときわ繊細で、見ているとその場にいるかのような思いに包まれる。

「つまり、『鬼滅の刃』によってまったく新しいアニメ映画の歴史が始まったといえます」

 炭治郎をはじめ、それぞれのキャラクターの言葉が刺さり、前向きな気持ちにさせてくれる台詞も人気を後押ししているという。

 最後に世代を超えて、コロナ禍のわたしたちに刺さる煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)の言葉を紹介しよう。

「己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと 心を燃やせ 歯を喰いしばって前を向け君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない 共に寄り添って悲しんではくれない」

(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2020年11月20日号より抜粋