この例のように、情報公開された資料の中には「生命保険料の支出」が不適正と指摘された例が5件あった。本来、福利厚生が目的で職員に生命保険をかけるのであれば正当な支出となるが、これは何を意味するのか。
都の資料によると、大田区のH保育園で「傷害保障重点期間設定型長期定期保険」の保険料を本部職員1人に約868万円もかけていたことが判明している。17年に売り出された同保険は保険料を全額「損金」として計上できるため、法人税の負担を軽減できる「節税保険」と呼ばれた。19年に金融庁がメスを入れて現在は販売できなくなっている。ある生保の外交員はこう話す。
「これは中小企業の経営者向けの保険です。『損金』として処理しておいて節税し、社長や役員の勇退時に解約すれば退職慰労金代わりになりますから。我々もそういう営業トークで売りに行きます。保育園にも営業に行くでしょうね」
ただ、保育園の委託費の半分以上は税金。保険を使った「財テク」に流用することは許されない。
資料には表れていないが、もっと大きな「カラクリ」も存在するという。
経営コンサルタントとして100社以上の保育園の新規開設を手掛けてきたX氏はこう語る。
「金融の世界でもよく使う業界用語なんですが、『B勘』を使うのですよ」
X氏によれば、保育園運営会社のA社の会計が表の「A勘定」だとすれば、別会社Bの会計が裏の「B勘定」となる。B社はA社の経営者が兼務するか、家族や知人の名を借りて登記する。社長が委託費を懐に入れるためのトンネル会社だ。
「B勘」の使い方の代表例は、保育園の工事費のキックバックだ。上限額はあるが、保育園の工事費の4分の3は国と市区町村が補助金で負担する仕組み。保育園の建設が決まると、行政からは工事費の補助金がA社に渡る。A社は自社とつながりのある建設会社Cに割高な額で工事を発注し、差額をB社にキックバックさせる。その率は「酷いところで工事費の10%」(X氏)だという。