本屋に行けば、片づけ指南本が並んでいる昨今。でも、ご安心を。世の中には机は汚いけど仕事ができる人もいるのだ。
机の上に書類の山をいくつも築いているのは、元東京地検特捜部検事で弁護士の葉玉匡美さん(47)だ。常時、15~20の案件の資料が積み上がっている。
葉玉さんのやり方はこうだ。まず自分の目の前30センチを作業スペースとして確保し、書類はその周囲、手の届く半径50センチ以内に積み重ねていく。ただし、高くなりすぎると崩れてしまう。そのときは、
「上から3センチ分を取り、残りの資料は遠くに押し出します」
押し出された資料は?
「机の上から落ちそうになったら捨てます。継続的に使わなくなった資料が後で必要になることは、ほとんどありません」
もちろん、裁判の証拠のような重要な資料は別に保管している。資料の山が押し出されていくこの方法は「ところてん型」とでもいうべきか。
「分類、整理するのは時間の無駄。手の届く範囲に必要な資料があるほうが仕事の速度も上がる。検察、弁護士時代を通して、他の誰より仕事は速い自信があります」
時間のロスが嫌だから片づけないのは、世の整理本と同じ理屈だ。かたづけ士の小松易さんも著書『仕事ができる人はなぜデスクがきれいなのか』の中で、1日10分の探し物は1年間で44時間もロスすると指摘している。葉玉さんはさらに「探す時間はもちろん、片づける時間さえもったいない」と言う。
整頓していないために探すのも、分類したファイルを探すのも、どちらもロスなのだ。 資料が見つからないときはどうするのか。葉玉さんは、「10秒探して見つからなければあきらめます。どうしても必要なら、再度もらうか、同僚に頼めばいい。過去の資料で、それがなければ絶対に仕事ができないというものはありません」
※AERA 2013年2月18日号