毎年の「ねんきん定期便」には65歳から年金をもらう場合と、5年繰り下げた場合の増えた年金額が棒グラフとともに示されているが、今回はその「手取り版」だ。

 先述のように、手取りは額面から「税金+社会保険料」を引いて求める。試算では代表的なものとして、税金は「所得税」(「復興特別所得税」は省略)と「住民税」、社会保険料は「国民健康保険」(75歳からは「後期高齢者医療制度」)と「介護保険」の保険料が引かれるとした(所得税以外は、自治体で基準額などが異なるので注意。編集部のある東京都中央区で試算)。

 まずは、二つの年金額の数字を素直に比べてほしい。東京23区の基準では、夫の年金収入が200万円なら住民税はかからない。各種控除を引くと所得税も「0」。

 しかし、5年繰り下げて夫の年金収入が280万円を超えてくると、夫に所得税と住民税がかかってくる(年間約8万円強)。社会保険料では、国民健康保険と後期高齢者医療制度の保険料が2倍以上高いのが目立つ。介護保険料も約1.7倍で、夫婦での税と社会保険料の負担は5年繰り下げた場合のほうが約28万~29万円多くなる。

 住む自治体や個人の状況によって違うものの、年金額のレベルによって負担がどう違うのかを実感していただきたい。

 手取りでも5年繰り下げた場合が大幅に多い。年間に手取りが90万円以上高くなる計算だ。月単位だと約7万5千円違う。

 これこそ繰り下げの“威力”になる。5年繰り下げによる額面の42%増には及ばないが、夫婦で手取りが約34%も増えるのだ。

「わが家は3人家族ですが、巣ごもりで毎日3食、家で食べて食費が月に7万円程度。高齢者の家庭では、この手取り増は生活の大きな安定につながる」(先の井戸氏)

「もう一つの見方」もある。繰り下げない人の視点だと、年金額のレベルに応じた負担や手取りの大ざっぱなイメージがつかめる。

 夫の年金額に注目してほしい。年金収入200万円の夫は厚生年金が月10万円程度と、厚生労働省のモデル世帯並みの男性を想定している。一方、年金収入284万円の夫は、厚生年金が月15万円前後の大企業社員と見立てられる。こうした想定をもとに、「ねんきん定期便」の数字と比べれば、自分の年金のレベルがわかる。また、その位置関係からおおよその手取りがイメージできる。(本誌・首藤由之)

週刊朝日  2020年11月27日号より抜粋

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