老後資金の大黒柱である「年金」。その額は自宅に送られてくる「ねんきん定期便」などでわかるものの、税金などを差し引いた肝心の「手取り」は誰も教えてくれない。年金額に応じて手取りはどう変わり、それを知るにはどうすればいいのか。豊かな年金生活を送る第一歩を学習しよう。
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埼玉県に住むAさん(65)は、これから夫とともに年金の「繰り下げ」を始める。1カ月繰り下げれば、年金額が0.7%増える制度。年金を本来受け取れるのは65歳だが、それを遅らせて年金額を増やす考えだ。
「この年になってお金の基盤を充実させようとすれば、年金を繰り下げるしかありません。そこそこ余裕ができる年金額にしたいのです」(Aさん)
2人とも働ける場所があるからこそできる繰り下げだが、気がかりが一つある。年金額はすぐ計算できるが、「手取り」がわからないのだ。
「今と変わらない生活をしたいというのが私たちの希望なんです。でも、手取りが把握できないので、どれぐらいの期間、繰り下げたらいいかがわからない」(同)
手取りを知るには、税金や社会保険料の金額を知る必要がある。
「それが難しくてわからないんです。役所に行っても、介護は介護保険課、住民税は税務課など、一つひとつの窓口が違っていて、とても回り切れません」(同)
確かに給料と同じく、年金も実際に自由に使えるお金がどれくらいなのかが大切だ。手取りは、マネーの世界では「可処分所得」と呼ばれる。
社会保険労務士でファイナンシャルプランナー(FP)の澤木明氏が、
「私が行うライフプランセミナーでは、必ず税金の仕組みをお話しして、手取りの求め方の基本を解説しています」
と言えば、『「このままじゃ老後の資金が足りない!!」と不安になったら読む「お金」徹底見直し術』を上梓(じょうし)した社労士でFPの井戸美枝氏も、
「私たちは『額面』ではなく手取りで生活しています。その金額を知ることは年金生活を始める第一歩になります」
ただ、Aさんが話すようにいちいち役所を回るのは大変。そこでまず、手取りのイメージをつかんでいただこうと編集部が独自に試算した。
年金の繰り下げ可能な年齢が拡大されるなど、世は「繰り下げ時代」に入りつつある。試算では、ともに65歳で年金収入が「夫200万円、妻90万円」の標準的な夫婦を想定し、65歳から受け取る場合と、ともに5年繰り下げた場合(夫284万円、妻127.8万円)の2ケースで計算した。