リアリティ番組に出演して激しいバッシングを浴びた木村花さんのケースは記憶に新しい。特定の人物をターゲットにして、おとしめるためツールになってしまっている側面があるのだ。
SNSに限らず特に「評価」に関する機能は、人をおとしめるツールとして利用されすい。
例えば、YouTube。米大統領選でバイデン氏の「勝利宣言」を流した動画は、トランプ氏よりのFOXニュースでさえ「評価する」と「評価しない」が同じくらいの数だった。対して、日本で勝利宣言を伝えるニュース動画では、「評価する」と「評価しない」が同数のものもあるが、目につく限り「評価しない」が圧倒的に上回る動画が多い。スピーチの内容を評価しているというよりは、「バイデン氏は嫌い、トランプ氏がいい」といった感情的な反応に近いようにみえる。
香山さんによると、Amazonの本のレビューに関しても、発売日直後など明らかに本を読んでいないと思われるタイミングで、「星一つ」を付ける現象がみられるという。
「内容に関係なく、著者を否定するツールとして使い始めてしまうのです。本来の機能とは別の使い方になってしまってしまう。残念ながら、匿名になったとたん、安全地帯から徹底的に相手をたたいて留飲を下げる、うさばらしの道具になってしまうのです」
人間のネガティブな心が簡単に可視化される影響も大きい。例えば、自分の何気ない投稿に対して「嫌いボタン」が何万回と押されたのを目にしたら、「こんなに私は嫌われているのか」と思ってしまう人がいてもおかしくない。嫌いボタンが追加されると「人気投票」の意味合いが増すという危うさがあるのだ。
「匿名の悪意のある投稿の怖いところは、攻撃された方が『私の方にも何か問題があるのではないか』と思い始めてしまうところです。まじめな人ほどまともに受け取ってしまい、考え込んでしまう傾向にあります」
SNSやネット上の評価に関して「一歩引いてみて、気にしなければいい」というアドバイスや、また「好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心。いいことだよ」という励ましもあるが、そのように割り切ることはなかなか難しい。現に香山さんは、嫌いボタンが話題になる前から、最近の学生から「もうTwitterはやめた」という話や、鍵をかけて使うという話を聞いてきた。つまり、自分の気持ちを守るために「対話はしない」という選択をしているのだ。若い世代は、SNSの負の側面をすでに経験をしてきているのだろう。
本来、SNSは年齢や立場を超えて共通の話題でつながることができ、自分と異なる考えの人と対話や議論をすることもできる有意義なツールでもある。それは民主主義の理想とも重なる。
「SNSは人間には早すぎたのかもしれません。成熟できていないのでしょうね」
根深い問題が背景に潜む「嫌いボタン」への反応。模索の先にどんな新機能が追加されるのか、されないのか。米Twitter社の判断を見守りたい。(AERAdot.編集部/鎌田倫子)