「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第37回は、「GoTo」キャンペーンについて。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて運用が見直されているが、それ以前に、GoToを利用した旅には違和感を覚えたという。
【写真】GoToに翻弄される国民。観光業の従事者に罪はない。
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久しぶりに家族で旅行をした。GoToトラベルである。秋田県の乳頭温泉と新幹線がパックになったものがずいぶん安いという。
家族は僕がどんな旅をしているかを知っている。それゆえだろうが、僕に家族旅行の決定権はない。僕はその日、辿り着いた街で宿を探すような旅ばかりしているから、宿の決め方も安易だ。以前、家族でカナダに行ったとき、空港に名前が出ていたホテルに決めようとした。そのときから、家族旅行の宿を決める権利をはく奪された。
乳頭温泉に向かう前、角館に寄った。ここには武家屋敷が残った通りがあり、観光地になっていた。紅葉の時期、その一角はにぎわっていた。並ぶ食堂や土産物屋の前で立ち止まってしまった。どの店もGoToトラベルでもらうクーポン利用ができる表示が出ていた。
「そういうことか……」
1週間前、山形県の新庄にいた。「奥の細道」のルートを徒歩や路線バス、列車でなぞるように進む僕流の旅である。日も暮れ、新庄の駅に着いた。駅で検索してみると、GoToトラベルを利用できるビジネスホテルがあった。チェックインのとき、ひとり500円のクーポンをもらった。利用できる店を訊くと、
「近くでは駅前の居酒屋ぐらいです」
といわれた。行ってみると、東京でもよく目にする大手チェーンの居酒屋だった。
「新庄まできてチェーンの居酒屋っていうのもなぁ」
同行するカメラマンと明るいネオンサインを見あげた。新庄は有名な観光地というわけではない。地元の店はクーポンに期待はしない。現金化が遅いというデメリットもあるという。