TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、写真家、ヘルムート・ニュートンについて。
『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』の場面カットはこちら
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反逆と挑発、毒と背徳で喝采を浴び続けた20世紀最大のフォトグラファーがヘルムート・ニュートンである。
ドキュメンタリー『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』では、ナジャ・アウアマン、シャーロット・ランプリングやクラウディア・シファー、イザベラ・ロッセリーニら名だたる美女が次々に登場、その知られざる一面を披露している。
「甘く儚(はかな)い写真が沢山ある中で、彼の作品は象徴的で不躾。でも確実に示唆に富む、勇気のある写真。だから私は彼に依頼する」とはアメリカ版『VOGUE』編集長アナ・ウィンター。彼女は映画『プラダを着た悪魔』のモデルでもある。
ニュートンについてはこれまで多くの論評がなされ、様々な人物がコメントしている。写真家なのに被写体としてアイコン的な扱いだ。昨年亡くなったファッションデザイナー、カール・ラガーフェルドは「1990年代のベルリンの少年の姿を想像することは難しくない」「ヘルムートはいまだにベルリン訛(なま)りがぬけないのだ」と『写真展ヘルムート・ニュートン/ポートレート』(ヘルムート・ニュートン展実行委員会)で語っている。
1920年、ベルリンに生まれたニュートンはドイツ表現主義に育まれるように幼少期を送り、終生この都市を愛した。「ベルリンには陽が射さない。だからベルリン娘はどことなく不健康だ。青白い肌。そこがいい。美しいスラブ系の唇と高い頬骨。顔の作りが良い。別格なのだ」「女優やモデルは人形に過ぎない。私が興味があるのは外見のみ。顔、脚。魂なんて興味ない」「男を見下す背の高い女性が好きだ」。そんな思いで幾多の写真をモノにした彼の手帳には細かいメモが記され、直感的と思われる写真も実は周到に考え抜かれたものだった。「その手帳には新聞記事のスクラップもあった」と教えてくれたのは彼の生涯を追う本作に挑んだゲロ・フォン・ベーム監督。ニュートンの第一印象を尋ねると「エレガントで素敵な笑顔。少年の心を持つ男だった」と言う。ベルリンに住むユダヤ人ブルジョアの世界。ワイマール時代の絵画、演劇、白黒の映画や、ダンスフロアのあるキャバレー……。