しかし、幸せな時期はヒトラーの登場で終わりを告げる。師と仰ぐ女性カメラマン(イーヴァ)は強制収容所で亡くなり、ユダヤ人としてナチから逃げ回る生活からベルリンを脱出、シンガポールで路上生活も経験した。

 戦後、ナチ宣伝映画を手がけて「血まみれの天才」と呼ばれたレニ・リーフェンシュタールの影響も受けるが、当然、そこには複雑な思いもあった。憎悪と尊敬に揺れる複雑なバックグラウンドが表現者としてのニュートンを一流にしたともいえる。

「矛盾と葛藤、複雑さが独特のテンションを生み、成功に繋がった」と監督は映像化に臨んだ意味を語った。「ニュートンの写真は(彼の人生と同じく)限りなく物語的です。だから大きなスクリーンで彼の人生を見せたかった。ポリティカル・コレクトネスでアートの自由が危機に瀕している今、『彼の時代』を振り返りたかったのです」

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2020年12月11日号

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