そして、最後は審査員の田中卓志さんです。

「THE W 2020」は出場資格が女性であることというだけで、笑いのジャンルは漫才だろうが、コントだろうが、ピン芸だろうが、何でもありの戦いです。

 一時期「M-1グランプリ」で審査員をされていた島田洋七さんにインタビューをした時、「R-1グランプリ」の審査について語ってらっしゃいました。

「『M-1』はまだ漫才という枠の中やから、色が違っても審査できるけど、オレは『R-1』の審査はできんわ。柔道とバスケを比べろ言われても、オレ、よう比べんもん」

 洋七さんの言葉を借りると、さらに「よう比べん」ものを「比べる」大会で、田中さんは極めて的確な批評をコンパクトな言葉でまとめ、そこに出場者への愛も込める。

 それこそ、ゆりやんレトリィバァさんに敗れた「Aマッソ」に対するコメントにも「新しい笑いの世界を生み出したと言ってもいい」という的確な分析とともに「Aマッソ」に対するねぎらいも込めてらっしゃいました。

 11月1日更新分Yahoo!拙連載で田中さんをインタビューした際に「最近、若手の人たちにアドバイスやダメ出しをする仕事が増えてるんです」とおっしゃってましたが、実際、以前の“イジられキャラ”と並行して“分析・アドバイスキャラ”も着実に確立されつつある。

 実際、大会後、複数のテレビ関係者と話をしましたが、田中さんの物言いに対する賛辞を多々聞きました。今後、さらに、その部分が出力高く求められていくのだろうなという未来予想図がくっきりと見える審査ぶりだったと思います。

 重ねて綴りますが、笑いに勝ち負けをつけるのは何とも苛烈な場です。ただ、だからこそ、そこから生まれるものも大きい。

 12月20日には今年も「M-1グランプリ」が開催されます。苛烈な戦いからのリターンにはたっぷりと“利子”がつく。

 2020年はあらゆるところに閉塞感がもたらされた一年となりましたが、そこの利率はしっかりと機能することを願うばかりです。(中西正男)

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