存在感を見せたAマッソ(撮影:中西正男)
存在感を見せたAマッソ(撮影:中西正男)

 日本テレビで放送された女性芸人ナンバーワン決定戦「THE W 2020」はピン芸人・吉住さんの優勝で幕を閉じました。

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 設定、構成、ワードセンス、芝居力、個性。どれをとっても非常に高いレベルのネタだったと思います。しかも、そこに“切なくなるかならないかギリギリの悲哀”も加味され、さらにネタに奥行きを与えていたと感じました。

 優勝した吉住さんが光を浴びるのは当然のことです。これから、あらゆる日本テレビの番組に呼ばれ、冠番組も放送され、注目度が高まることは間違いありません。それが笑いに勝ち負けをつけるという苛烈極まりない場を勝ち上がった者が手にする当然の報酬です。

 ただ、今大会は優勝者以外にも明確に“得をした”人たちがいると感じました。優勝はできなかったが、注目が集まり高い評価に結びつく。

 そのパターンはあらゆる賞レースで起こってきたことですが、今回は特にその要素が強かったと僕は思っています。

 じゃ、誰が得をしたのか。

 一組目は「オダウエダ」。女性が監禁されているシチュエーションでのコントでした。

 女性が主役ということで、他の賞レースよりもさらに華やかな「THE W 2020」という場で、この上なく、自分たちの世界観を見せつけた。

 しかも、それが“華やか”“ゴールデン”“地上波”という空気と一見逆行しているような猟奇的な色があるものだった。ただ、それがしっかり面白かった。

 このミスマッチ感は大きなインパクトを残しましたし、審査員の「笑い飯」哲夫さんも「自分の中では(最高点の)99点」と評していたように、僕の周りの笑いの作り手さんからも「あのネタを、あの場でやる意味は極めて大きかったし、そのマインドが素晴らしい」と評価する声が複数聞こえてきます。

 次は「Aマッソ」です。映像と漫才を融合させたネタでした。

 大会前、12月13日更新分Yahoo!拙連載でインタビューもしましたが「優勝しか考えていない」というツッコミ担当の加納さんの言葉には幾重にも重みと厚みがありました。

 そして「優勝したら、もう映像を使った漫才は私たちの特許的なものになるはずなので、映像漫才というところに、優勝で自分たちの“旗”を立てたい」ともおっしゃっていました。

 まさに、その言葉にふさわしいクオリティーと斬新さでしたし、従来からの、魂の暗部を狙撃するようなワードも随所に散りばめられていました。

 何より、あの形を作り上げたことで“勝利”とはまた違う“発明”という偉業を達成されたと思っています。

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中西正男

中西正男

芸能記者。1974年、大阪府生まれ。立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当として、故桂米朝さんのインタビューなどお笑いを中心に取材にあたる。取材を通じて若手からベテランまで広く芸人との付き合いがある。2012年に同社を退社し、井上公造氏の事務所「KOZOクリエイターズ」に所属。「上沼・高田のクギズケ!」「す・またん!」(読売テレビ)、「キャッチ!」(中京テレビ)、「旬感LIVE とれたてっ!」(関西テレビ)、「松井愛のすこ~し愛して♡」(MBSラジオ)、「ウラのウラまで浦川です」(ABCラジオ)などに出演中。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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