■消毒漏れ起こり得る

 第1波最大の院内感染があった永寿総合病院(東京都)でも、厚生労働省のクラスター対策班が職員を通じて院内感染が広がった可能性を指摘している。

 なぜ、職員を通じ感染が広がるのか。医療スタッフは、患者に触れるタイミングごとに手指消毒し、患者ごとに手袋を替える。感染症予防のための鉄則だ。

 だが、理想を徹底するのは「難しい」と大友院長は話す。

「自力で動けない患者が4人いる病室で、食事の介助をすると、手袋の届かない腕まで患者に触れることもある。患者ごとに手袋を替え、消毒することにはなっていますが、忙しい食事時に腕まで完全に消毒できていたかどうかはわからない」

 前出の岸田医師も言う。

「現実はマニュアル通りにはいかない。日本の病院は大部屋が多い。手指衛生の順守率は、優れた病院でも60%程度といわれています」

 消毒漏れは起こり得る。職員に疲弊や不安があればなおさらだ。10月に始動した東京iCDC(東京感染症対策センター)は、前述の青梅市立総合病院のほか、これまでクラスターが出た都内の病院10軒ほどに入り、感染経路などを調べている。担当する東京都疫学情報担当課の中坪直樹課長は、こう話す。

「感染が広がり職員にも不安が広がると、適切な防護ができなくなります。防護具の使用法の指導などを丁寧に行っています」

 実際、感染を恐れて患者ごとの手袋の着脱ができなくなっているケースもあったが、指導によって改善したという。

 一般には、飛沫感染が最も多く、接触感染の可能性は高くないとされている。だが、病院は例外だ。岸田医師は解説する。

「免疫が低下した患者が多くいて、患者と医療スタッフの接触も多い。患者が感染した際の重症化リスクもあがります」

 実際、前出の永寿総合病院では、血液内科で感染した患者のうち23人が亡くなった。岸田医師はこう警鐘を鳴らす。

「総合病院のような急性期患者を診る医療機関は、ベッドの回転が早い分、患者の入れ替わりが激しい。無症状者が来る確率も上がります。感染拡大地域での院内感染は必ずしも医療機関の気の緩みというわけではなく、もう個々の努力では対応が難しいということです」

 新型コロナウイルス対策の基本は、感染初期から変わらない。早期発見、早期隔離、早期治療の徹底が改めて問われている。(ライター・井上由紀子)

AERA 2020年12月21日号

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井上由紀子

井上由紀子

アエラ編集部の記者です。AERA「カフェで仕事はアリかナシか」など

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