事実、今年3月から10月の間に同社のサービスを介して転職を決めた人のうち、半数を超える52%は年収増での転職だった。特に伸び盛りなのがIT業界で、IT・ウェブ・通信系の技術職は63%の人が年収増を勝ち取っている。
IT人材の転職仲介を行うレバテックの代表執行役社長、林英司さんはこう説明する。
「IT業界がコロナの打撃を受けなかったわけではなく、弊社で扱う求人数も一時的にグッと落ち込みました。それでも5月を底に、かなり回復しています。コロナ前に『超売り手市場』だったのが、今は『普通の売り手市場』になったイメージです」
■引き合い強いデータ系
なかでも引き合いが強いのが、データベース構築を行うデータエンジニアや、データを用いた分析を行うデータサイエンティストだ。
東京都在住の小澤和也さん(29)は、データサイエンティストとして今年7月、データ分析専業のコンサル会社から、ITメガベンチャーの雄、サイバーエージェントへ転職した。同社ではネットTV事業を担当し、データを活用した戦略設計やその効果の検証を行うという。
「機械学習などの技術的なスキルだけでなく、ビジネスにつなげるためにどうすればいいか、どうプロジェクトをマネジメントしていくかといった『スキルの掛け算』の経験が転職で評価されたのだと思います」
今回の転職では、小澤さん自身が「年収増は特に求めなかった」こともあり、これまでと同程度。それでも、小澤さんを担当したキャリアコンサルタントの男性はこう断言する。
「もし小澤さんが年収増にこだわったなら、100万円単位の増額も可能だったはず。転職活動中も引く手あまたで、選考初期の段階では苦戦する要素がありませんでした」
“希少人材”の争奪戦は激しさを増すばかりだ。あるITベンチャーの経営幹部はデータ人材についてこう明かす。
「それこそ、札束の叩き合いを仕掛けてくる企業もある。転職予定者にスキルや経験から出せる目いっぱいの額を提示しても、『別の企業にはるかに高い年収を提示された』と断られてしまうことがあります」
IT技術職以外はどうか。
たとえば、企業の管理部門のなかでコーポレートガバナンスや危機管理を担当する法務職。人材サービス大手のパソナで管理部門人材紹介を専門とする堀江彩佳さんによると、管理部門全体の求人は、4月の緊急事態宣言の時点でコロナ禍前の60%程度に落ち込み、いまも80%程度だが、法務職は横ばいに近い数字が続いているという。
「近年は、どんな企業でもガバナンス強化や個人情報保護が必須課題ですし、M&Aを行う会社も増え、法務人材の転職市場はさらに回復傾向にあります。コロナ禍でも社内システムの一新を求められる企業などがあり、法務人材の需要を支えています」
(編集部・川口穣)
※AERA 2020年12月21日号より抜粋