戦後史を総覧した『愛国とノーサイド 松任谷家と頭山家』(講談社)の執筆で故園田直外相秘書だった方と会った。大臣秘書として全国をまわるが、サラリーマン時代は一番の安宿だったのが、大臣と一緒だと最高の宿に泊まる。最低の宿と最高の宿、両方の景色を見るのが秘書だと教えてもらった。そして大臣のこんな一言も。「いいか、小説家は一枚の木の葉で膨大な物語をつくる。政治家はその逆だ。膨大な物語を一枚の木の葉で表現する。世の中の複雑さをどう簡潔に表現するか。一枚の木の葉が落ちたら世の中はどうなるのか、それを考えるのが政治だ」

 秘書は政治家という神輿(みこし)を担いで全国を練り歩き、支持者に頭を下げてまわる。仕事が終わるのは深夜の11時過ぎ。永田町から赤坂一ツ木通りに出てラーメンを啜る。

「向こう側の席に鈴木宗男さんがいてね。中川一郎さんの秘書だった彼も後輩たちを連れてラーメンを食べていたな」

 当選後は選挙区にお礼参りし、次の選挙に備えるという日々が続く。政争、人事、嫉妬に裏切り。一寸先は闇と言われる政治の世界で自分はその闇を照らす一筋の光になれるのか。画家や音楽家と同様、政治もある種の自己表現とするならば、自らを動かす信念に従って敢然と前に進む気持ちはわからないことはない。

 そんな政治に人生を賭ける人たちの群像ドラマが『補佐官─世界を動かす人々』。この世界に生きる群像のある種の凄みを堪能した。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2020年12月25日号

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