―― 杉村さんは子育て真っ最中。仕事や裁判との両立は大変だったのでは。
杉村 最初は0歳の息子を自治体が仲介するベビーシッターに預けました。保活して入れた認可保育園は通勤経路とは逆の方向だったため、家と保育園を2往復する必要があり毎日合計で2時間もかかりました。雨の日もママチャリに息子を乗せ、はく息が白くなる真冬でも、レインカバーのなかにいる息子に大きな声で話しかけながらの送り迎え。忙しいなかでの大切な幸せなひとときでした。
そのうち自宅近くの保育園に転園できましたが、私が保育園にお迎えに行くのは、いつも延長保育の終わるギリギリの時間。子どもが寝た後で深夜にパソコンに向かい、母にも協力をしてもらって、なんとかやってきました。
―― この裁判は、マスコミの報道姿勢も問われたかと思います。多くは企業の立場が強く、寄り添うべき弱者は労働者になりますが、本当は白黒決めつけてはいけない。地裁で審議が行われていた2015年の頃はマタハラ問題が時流になり、記者会見の女性の事実でない発言が一斉報道されました。
杉村 高裁判決で名誉毀損だと認めてもらえましたが、「退職や契約社員になることを強要された」「子どもを産んだら人格を否定された」など、してもいないマタハラを行った被告として会社が実名報道された時は、胸をえぐられるような気持ちになりました。事実でない発言があっても、会社への取材がほとんどないまま報道されていく。もう、どうしていいのか分かりませんでした。
―― 原告女性は男性上司の音声データ「俺はね、彼女が妊娠したら俺の稼ぎだけで食わせていくくらいのつもりで妊娠させる」をマスコミに提供し、このフレーズだけが切り取られて繰り返し報道されました。高裁判決は「女性の求めは自己の都合のみを優先し、現実味のないものであった。労働局に相談し、労働組合に加入して交渉し、労働委員会にあっせん申請しても、自己の要求が容れられないことから、広く社会に報道されることを期待して、マスコミ関係者らに対し、客観的事実とは異なる事実を伝え、録音したデータを提供することによって、社会に対して一審被告が育休明けの労働者の権利を侵害するマタハラ企業であるとの印象を与えようと企図したもの」と厳しく断じました。