杉村 在籍中から何度聞いても「決まった」と言っていた保育園の名前は教えてくれませんでした。一審の終盤になって園名が明かされました。裁判中、「決まった」はずの保育園は、「見つかった」「キャンセルした」と言葉が変わっていきました。
裁判では偽りを述べないと宣誓します。労使ともに誠実であることは必要で、これまで何度も原告側には軌道修正する機会があったはずです。そこは、誠実であってほしかった。もし、つい言ってしまった、というのであれば、もっと早い段階でそう認めてほしかった。そうであれば、ここまで大きな問題にならず、ソフトランディングできたのではないでしょうか。
―― 裁判で証拠として提出され判決文でも引用されている、「勤務中に弁護団宛に作成された女性のメール」には、「今、マタハラが脚光を浴びていること。提訴し、記者会見をすることで、裁判には前向きです。早期解決を図るため金銭解決に応じるのであれば、800万円。(略)会社は、裁判というより記者会見を嫌がるでしょう。記者会見を避けるために、こちらの言い値を支払うこともありえると思っています」とあり、高裁でも原告は約2283万円を会社に請求しました。高裁判決で「原告女性が記者会見を会社に社会的制裁を与えて自己の金銭的要求を達成する手段と考えている」と示されました。
杉村 もし、このようなことがまかり通ってしまったら、本当にハラスメントで困っている人が救われなくなってしまうのではないでしょうか。これでは柔軟な働き方を実施する中小企業も減ってしまいます。雇う側もリスクを感じて妊娠を望む女性の採用を手控えてしまうかもしれない。それは女性活躍の流れを阻むことになってしまいます。
個別労働紛争が起こった時、退職を前提にした金銭解決がゴールとは限らないはず。労働組合の役割とは本来、そこで長く働き共存共栄するために、経営者に対して業種、職種、企業規模に応じた働く条件や職場環境の整備を求めることにあると思います。