延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は桐島かれんさんについて。

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 昨年の秋、早稲田大学村上春樹ライブラリーの開館1周年記念で、上田秋成による怪奇小説「雨月物語」白石加代子朗読イベントを開いた時だ。

 英国エリザベス朝時代の「フォーチュン座」を模した演劇博物館正面の特設舞台だったが、暮れなずむ早稲田の杜(もり)にひときわ鮮やかなサーモンピンクのワンピースで現れたのが桐島かれんだった。写真家のご主人と早稲田に通う息子さんと3人で。桐島洋子の血統というか(女性の自立が喧伝された僕の母世代にファンが多い)、こういうハレの場所に似合うなぁと惚れ惚れしてしまった。

 やりたいことは物怖(お)じせず、堂々と実行する、好きなものは好き、常に新しい地平を目指す……母にも通じるそんなイメージが爽やかな華やかさにつながっていた。

 番組ディレクター時代、かれんが再結成に参加したサディスティック・ミカ・バンドの『天晴(あっぱれ)』(1989年リリース)は何度オンエアしたかしれない。改めてアルバムを聴くと先頃亡くなった高橋幸宏さんとのデュエットも多い。彼女は資生堂やポーラ化粧品のモデルから抜擢(ばってき)された。僕はバンドリーダー加藤和彦のセンスの良さに舌を巻いた。

「加藤和彦さんも(高橋)幸宏さんも、こんなにお洒落(しゃれ)で素敵なおじさまがいるんだって思いました。サディスティック・ミカ・バンドの(アルバム)『黒船』なんて、ほんとにかっこよかった。ライブは母も見に来たんですよ。まあびっくりしていました」

 かれんは母の桐島洋子と妹ノエル、弟ローランドと本を出した。タイトル『ペガサスの記憶』は母。「大宅賞受賞の作家で、自由を崇拝し、我が家の百科事典で、最高に信頼できる評論家。超インテリで超プラグマティックな母がまず自伝を書き始め、それが3年間放置されていたんです」

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