人間時代の獪岳(左)と我妻善逸(画像はコミックス「鬼滅の刃」17巻 第145話「幸せの箱」の表紙より)
人間時代の獪岳(左)と我妻善逸(画像はコミックス「鬼滅の刃」17巻 第145話「幸せの箱」の表紙より)
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 時代に名を残す大ヒットとなった『鬼滅の刃』。その作り上げられたキャラクターたちに、子どもも大人も感情移入してしまう。自分と重ね合わせてしまう人も少なくないはずだ。キャラのセリフや言動から自分とは何か、人間とは何かを考える――『鬼滅の刃』はそれができる稀有な作品だろう。ここでは、人気キャラ・我妻善逸の兄弟子だった鬼「獪岳」のエピソードから、『鬼滅の刃』の教訓性について考えたい。
(※以下の記事には、『鬼滅の刃』コミックス既刊分のネタバレが含まれます。) 

【写真】「憎たらしい」のに人気が高い“上弦”の鬼はこちら

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■利己的な獪岳の言動

『鬼滅の刃』の「鬼」の中で、読者から非難を集めつつも、キャラクター人気投票で上位に入った鬼がいる。獪岳(かいがく)だ。人気投票1位の我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)と同じ「雷の呼吸」の使い手であり、常に善逸を見下している。善逸や師範への暴言も数知れず、それだけで不人気になりそうなものだが、鬼としては4番目(総合で21位)の人気を獲得したのだ。

 獪岳は、元・鳴柱の桑島慈悟郎(くわじま・じごろう)のもとで、「雷の呼吸」を習得し、その後継のひとりに選ばれていた。

 生存することすら難しい鬼殺隊の入隊試験「最終選別」に合格し、実力者へとのぼりつめていった獪岳であったが、彼にまつわるエピソードには、彼のうたぐり深さ、攻撃的で利己的な言動が目につく。とくに同門の後輩である善逸には、意地の悪い発言を繰り返している。

<消えろよ わかるだろ? 朝から晩までビービー泣いて恥ずかしくねぇのかよ 愚図が(第4巻 34話 強靭な刃)>

 獪岳の態度は、弟弟子・善逸の心を傷つけていた。その後も、獪岳が鬼になったがために、師・桑島が責任をとって割腹自害を果たしたと、善逸から聞かされても、自分の非を認めようとはしない。

<知ったことじゃねぇよ だから? 何だ? 悲しめ? 悔い改めろってか? 俺は俺を評価しない奴なんぞ相手にしない>(第17巻 145話「幸せの箱」)

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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善逸への怒りと桑島への不信感